18:05分頃より,今回の共催メーカーである株式会社エーザイより,片頭痛治療薬マクサルト(rizatriptane)の製品紹介と,頭痛ダイアリー・片頭痛診断のためのスクリーナーなどの使用方法について説明がありました。ご希望の施設には,担当MRを介してすぐにお届けしますとのことでした。
18:20頃開会のアナウンスがあり,一般演題の座長である北見が登壇し,一般演題が2題発表されました。
一般演題1「家族性片麻痺性片頭痛1型の1家系~臨床症状は多様であるにも関わらず,頭位変換下向き眼振は共通する症候である」
演者: 北海道大学神経内科准教授 矢部一郎先生
太り過ぎのために精神的な理由
矢部先生は非常に珍しい家族性片麻痺性片頭痛(FHM)の一家系を発表されました。日本ではまだ1,2の報告がある程度とのことです。発端者は40歳半ばの男性で,30歳半ば頃より左半身脱力鈍麻,直後より激しい頭痛発作を繰り返していました。40歳を過ぎた頃よりふらつきを自覚するようになり,神経学的に両側軽度眼振が見られ,頭位変換時に下向き眼振が著明に出現しました。発端者の母親も小脳性運動失調や頭位変換下向き眼振が見られ,発端者の兄(50歳代)も前兆のない片頭痛や小脳性運動失調を認めました。いずれもMRIで小脳萎縮を認め,遺伝子解析で第19染色体上のCACNA1A遺伝子の変異が示され,FHM1型と診断されました。これまでFHNは3型が分類され ており,報告の過半数は1型ということです。本報告ではいずれも頭位変換下向き眼振が特徴的に見られ,小脳性運動失調や小脳萎縮が見られることから,脊髄小脳変性症との関連が注目されており,特にSCA6というサブタイプとの関連があるのではないかとのことでした。頭位変換下向き眼振の発現機序としては,小脳プルキンエ細胞の脱抑制が原因と推定されているようです。FHM1はダイアモックスが発作予防に有効であることが確立されている病気ですので,正確に診断することが重要です。そのため,現在の国際頭痛分類ICHD-Ⅱでは解説で「運動麻痺(脱力)を含む前兆のある片頭痛で,第1度近親者または第2度近親者の少なくとも1人が運動麻痺(脱力)を含む片頭痛前兆を有する。」とされていますが,矢部先生は前兆は必ずしも運� �麻痺ではなくてもよく,小脳失調症状や眼振などを含むべきではないかと提言されていました。
一般演題2「頭痛を主訴としたSAPHO症候群の1例」
演者:中村記念病院神経内科 津田玲子先生
薬は貧血を引き起こすもの
津田先生も非常に稀な症例報告を発表されました。SAPHO症候群とは,滑膜炎,前胸壁の骨化,鎖骨の無菌性骨髄炎像などの多彩な病像の頭文字(synovitis,acne,pustulosis,hyperostosis ,osteitis)をとった名称で,無菌性皮膚嚢胞性病変胞症に骨関節炎が合併した病態のことだそうです。症例は60歳代の女性で,10数年前から頭痛で発症し,次第に頭痛の程度が強くなり,頭痛,嘔吐発作で当院受診となりました。10-9年前,6年ほど前にも発作が頻回で原因不明の炎症性疾患で入院治療を行い,数年前にはプレドニゾロンを使用して頭痛は軽減したとのことです。頭痛は右側頭部から後頭部に限局し,性状は非拍動性ですが,鎮痛薬を飲まなければ一日中持続するというものでした。CTでは同部に著明な骨肥厚像と一部骨破壊像も見られ,骨シンチでは同部に著明な取り込みが見られました。当初骨腫瘍や骨髄炎などを疑い,病巣を開頭術にて切除しましたが,病理でも非特異的炎症のみだったようです。数年前よりリウマチ反 応と発熱が出現し,手背と足背~外果に潰瘍を伴う膿疱性皮膚炎が悪化し,プレドニゾロンやその他の免疫抑制療法を行っているとのことです。SAPHO症候群はまだ原因不明で,自己免疫説や病巣感染説その他いろいろな説が唱えられています。皮膚病変が先行し骨病変は遅れて出現する,または2年以内に両症状が出現することが多いとされています。骨病変は大半は胸鎖関節や四肢の関節周囲に起きてきますが,この症例のように頭蓋骨に起きるのは極めて稀であるとのことでした。
19:00頃より,札幌医科大学神経内科教授 下濱 俊先生の座長のもと,本日の特別講演が始められました。
特別講演「頭痛研究の最近の話題-頭痛を理解し,よりよく治療するために-」
鳥取大学脳神経内科准教授 竹島 多賀夫先生
両足の坐骨神経痛
竹島先生は第2回の本勉強会でもご講演いただき,現在の日本の頭痛研究の最先端を走っておられる研究者です。お忙しい中をご無理を申し上げ,頭痛研究の最近の話題についてご講演いただきました。まず頭痛に関する疫学的なお話と診断についての話題を話されました。疫学調査は竹島先生の得意とする分野でもあるようで,2000年に鳥取県の大山(だいせん)町で頭痛の疫学調査を大規模に行っておられます。その結果,片頭痛の有病率は6%,緊張型頭痛は22%で,高齢者が多いため,年齢を考慮した訂正有病率では片頭痛で7.3%と,北里大学の8.4%とほぼ同様の結果でした。男性は2.7%,女性は11.4%だったとのことです。病院の受診歴がない方が72%もあり,薬物乱用頭痛� �多く見られたようです。慢性頭痛による経済損失は間中先生の2005年のデータを示され,年間2878億円もの経済損失が出ていると話されました。このことを踏まえ,2005年に京都で開かれた国際頭痛学会で,京都頭痛宣言が発表され,より多くの頭痛患者さんを頭痛から解放しようという取り組みが進行しつつあるとのことです。その中心として2004年に発表された国際頭痛分類第2版(ICHD-Ⅱ)があり,また臨床医療の参考になるのが頭痛診療ガイドラインです。ただ,このガイドラインは診療をしばるものではなく,あくまで診療の参考に使うものであると竹島先生は強調されていました。また慢性頭痛診断のための頭痛スクリーナーについても解説されました。
その後,先生が経験された珍しい頭痛の症例を発表され,経過を丁寧に解説されていました。1例目は慢性片頭痛の70歳代後半の女性で,これまで慢性片頭痛と診断することが困難だった方ですが,ICHD-Ⅱの診断基準が改定され,付録でトリプタン・エルゴタミン投与により頭痛が軽減するようなら慢性片頭痛と診断してよいと記載されたので,この症例を慢性片頭痛と診断できたそうです。次に珍しい新規発症持続性連日性頭痛の80歳代前半の女性例を報告されました。この頭痛は急に発症し,他の一次性頭痛とは診断できず,連日持続するようになる頭痛で,この症例は慢性緊張型頭痛のような頭痛が数ヶ月続いたとのことです。次に40歳代後半の女性の睡眠時頭痛症例を提示されました。� �眠時頭痛は「目覚まし頭痛」といわれるほど規則的に夜中の1-3時に起こり,自律神経症状はなく,数時間持続します。この症例ではカフェインは持続的な効果がなく,炭酸リチウムが有効だったとのことです。最後に非常に稀なSUNCT症候群の40歳代前半の男性例につき,実際の結膜充血と流涙の発作を動画で示されていました。我々にはなかなかお目にかかることのない貴重な症例でした。このように非常に珍しい貴重な症例を提示されて説明されましたが,慢性頭痛の症例をみる場合,必ず二次性頭痛ではないことを確認する必要があると強調されていました。
次に先生の教室で行われている臨床研究について話されました。まず家族性片麻痺性片頭痛(FHM)の遺伝子解析について話され,第19遺伝子の19p13でCACNA1A遺伝子の変異が確認されるFHM1が過半数で,小脳萎縮も多く,更に詳細にT666Mという部分の変異が大部分であると話されました。また脳底型片頭痛の特徴を有するものも多く,カテーテル検査や軽微な外傷により発症するケースもあるとのことです。そのほかATP1A2遺伝子の変異によるFHM type2はてんかん発作を併発しやすく,非定型的前兆がめだつものが多いそうです。最近SCN1A遺伝子の変異によるFHM type3も見出され報告されたとのことでした。次に皮質拡延性抑制(Cortical spreading depression)について話されました。もともとは片頭痛の視覚前兆の詳細な分析と,脳血流検査の結果が結びついてこの概念が出来上がったものであり,脳の電気活動の抑制が約3mm/分の速度で大脳皮質を拡延してゆく現象が後頭葉で発現したものが閃輝暗点であると考えられていることや,片頭痛の前兆時には脳血流の低下がみられ,脳虚血も関与していることなどが詳しく研究されていると話されました。また片頭痛における生化学マーカーについても話され,TGFβ1やMMP9が特異的マーカーになる可能性を示唆されました。
最後にこれからの片頭痛医療に関して述べられ,アロディニア(異痛)の発症機序から考えて,トリプタンは早期服薬が望ましいこと,アロディニアが出現した場合にはトリプタンの効果が悪いことなどを話されま した。急性期治療薬だけでは頭痛による支障が十分に取り除けない場合には予防療法が必要であること,また予防薬の選択にさいして,片頭痛共存疾患についても配慮が必要で,特にうつや不安障害は重要であると述べられました。さらにトリプタンの効かない片頭痛に対しての対応や,トリプタンの上手な服用法,二次性頭痛の除外などが大事であると述べられました。
会の終わりにあたり,20:20頃に,本頭痛勉強会の顧問である札幌医科大学麻酔科教授の並木昭義先生に会の総括を述べていただき,無事,第13回の北海道頭痛勉強会を終了いたしました。次回は平成20年6月頃にグラクソスミスクライン株式会社の共催で行う予定でおります。
文責 北見公一
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